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【第14回】 追い風のとき“差し”は決まりやすいのか《後編》 [ボートレース×統計学]

【第14回】 追い風のとき“差し”は決まりやすいのか《後編》 [ボートレース×統計学]

前編では「風速3メートル以上の追い風のとき、差しは明らかに決まりやすくなる」という結論に至りました。

その境目を2メートルに変えても結論は変わらず、差しの出現率上昇は揺るぎないものだったのです。

さらには、前編を締めくくる際にこう書きました──「ほかの決まり手の出現率はどうなっているのか」と。

そこで後編では視野を広げ、全ての決まり手に目を向けます。

そこから見えてきた景色は、あの定説への静かな釘刺しになりました──

前回と同じものさしで、再び測る

後編に入る前に、検証条件をもう一度整理しておきましょう。

前編と同じく、ボートレース公式サイトにもとづいた16方向のうち、進行方向に対して後方となる7方向からの風を「追い風」と定義し、風速3メートル以上のレースを対象としています。

この記事での「追い風」の定義を示した図。ボートの進行方向に対して後方7方向から吹く風を追い風として扱う。

対象レース数は5,942レース、有意水準は5%、手法は母比率の両側検定です。棄却限界値は±1.96で、検定統計量がこの範囲を超えたとき、帰無仮説を棄却して「全体と違いがある」と判断します。

これらの条件は前編から一切変わりません──

差しだけでなく全体を見渡す

前編では差しに絞って丁寧に検証しましたが、後編ではすべての決まり手について、まずは出現率から確認していきます。

風速3メートル以上の追い風における各決まり手の出現率一覧。全体の出現率との比較を示している。

全体の出現率が高い順に並べてみました。

出現率の順位そのものは、風速3メートル以上の追い風のときも変わりません。

とはいえ、それぞれを比較すると、数値には変化が多く見られます。

この出現率の違いがブレの範囲内なのか、それとも明らかな違いといえるのかは、このままでは判断ができません。

そこで、"ある値"を上の表に付け足して、それぞれの出現率を深掘りしてみましょう。

検定統計量が教えてくれること

風速3メートル以上の追い風における各決まり手の出現率と検定統計量の一覧。全体の出現率との比較に加え、各決まり手の検定統計量を示している。

上の表に、検定統計量の列を追加しました。

検定統計量は、試行回数を考慮することで、一見違いが分かりにくいふたつの確率の差に、どれほどの意味合いがあるかを教えてくれる値です。

前編では差しという1つの決まり手だけを見ましたが、後編では6つすべてを、このものさしで並べて見ることができます。

出現率の変化が大きく見えても、それが偶然の範囲なのか、確かな違いなのかは、検定統計量を見なければ判断がつきません。

まさに"その検証を象徴する値"ともいえるでしょう。

一群の母比率検定で使用する両側検定の判定イメージ。棄却限界値±1.96を境に、左右が棄却域となることを示したグラフ。

これらの値を母比率の両側検定の判定用グラフに配置し、それぞれの位置関係を確認してみます。

各決まり手の"上がり具合"と"下がり具合"が、これで一目瞭然になるはずです──

グラフで「位置関係」を確認する

それぞれの検定統計量をひとつのグラフに配置しました。

グラフを見ると、いくつかのことが一目で分かります。

風速3メートル以上の追い風における各決まり手の検定統計量の位置を示したグラフ。各検定統計量の位置関係がわかる。

まず、左の棄却域には逃げとまくり差しが位置しています。

これは「風速3メートル以上の追い風のとき、逃げやまくり差しの出現率は全体より明らかに低い方向に違いがある」ことを意味します。

ここで、公式サイトにあった「追い風時は逃げと差し」という定説に、早くも黄色信号が灯ったことになります。

一方、棄却域に入らなかったのは恵まれのみでした。

6つの決まり手のうち、白い部分に留まったのはたった1つだけだったのです。

そして右の棄却域には、前編で確認した差しと抜き──

そして、もうひとつ意外な決まり手が加わることになります──

まくりの登場は、まだ早い

定説の下の句、「向かい風のときは──」にあるまくりが、ここで先に登場することになりました。

本来なら向かい風の場面で語られるはずのそれが、追い風という真逆の条件下で右側の棄却域に入っているのです。

これほど多くの決まり手に変化が表れたことを、私たちはどう受け止めればよいのでしょうか──

そこで、ここでは出現率上位の逃げ・まくり・差しに注目してみましょう。

逃げは左の棄却域、差しは右の棄却域の中でも大きく離れた位置に、まくりも右の棄却域に位置しています。

つまり、出現率上位3つの決まり手がすべて棄却域に入ったということです。

風速3メートル以上の追い風という条件が、ボートレースの決まり手の構成に意味のある変化をもたらしていることが見えてきました──

「有利」という言葉を、検証する

「追い風は逃げと差しが有利、向かい風はまくりが有利」──

この定説を、今回の結果と照らし合わせてみましょう。

逃げについては、出現率は依然として最も高いものです。

ただ、風速3メートル以上の追い風のときは全体より明らかに減少しています。

これは定説の「有利」と表現するには、少しズレがある結果です。

一方、差しについては前回検証したとおり、定説と一致します。

ところが、追い風のときにまくりも"上がり具合"が大きくなっているという結果は、定説の「向かい風はまくり」という説明では捉えきれない動きです──

定説は正しいのか、それとも──

検証結果を整理してみましょう。

まず、追い風のとき差しが決まりやすくなることは、この検証で確かめられました。

次に、逃げは全体と比較して下がっているといえる結果が出ています。

ただ、出現率の高い順に並べても、ほかの決まり手に抜かれることなく1位をキープできているのも事実です。

これは「ボートレースはインコースが有利」という最大の特性を、ほかの決まり手が――今回の条件下でも――上回ることができなかったということです。

つまり「逃げが有利」も、出現率1位という意味では間違ってはいない──私はそう捉えています。

そして、定説の上の句では触れられていないまくりが、風速3メートル以上の追い風の条件下で大きく増加していたのです──

この結果をどう予想に反映するか

では、今回の結果をボートレース予想にどう活かせるでしょうか。

結論としては、出現率の順位は全体と変わらないため、従来の予想スタイルを根本から崩す必要はないと考えます。

逃げが最も多く、次いでまくり、差しという序列自体は、追い風でも変わっていないからです。

有利だとされていた差しは、2位のまくりに出現率で迫ったとはいえ、逆転できたわけではありませんでした。

ただし、風速3メートル以上の追い風のレースでは、差しへの警戒度を普段より引き上げましょう。

それだけで、一段上のボートレース予想になると考えています。

11.8%から15.3%への上昇幅は、決して軽視できるものではないのです。

まくりへの意識も忘れずに

そしてもうひとつ、意識を向けるべき決まり手があります。

定説では「追い風にまくりは不利」と明確にされていないものの、私も含めてそう考えていた方は少なくないはずです。

ただ、今回のデータは、その見方とは異なる動きを見せていました。

「追い風だからまくりはない」と決めてかかると、この条件下での取りこぼしにつながるかもしれません。

差しへの警戒に加え、まくりへの意識も普段より高める──この視点を持つだけで、同じ定説だけを知る人との差が生まれるはずです。

定説の先に見えた、ふたつの動き

今回の検証で見えてきたことをまとめましょう。

風速3メートル以上の追い風のとき、逃げは大きく減少し、差しとまくりは大きく増加します。

とはいえ、出現率の順位は変わらないため、予想の軸を崩す必要はありません。

「追い風は逃げと差し」という定説は、間違いではありませんでした。

でも、数字はその先にある景色──まくりという、もうひとつの動き──も見せてくれました。

これで風向についての検証は一旦終わりますが、追い風の定義や風速の境目を変えれば、違う結果になることも十分に考えられます。

皆さんの切り口で、この"定説"にメスを入れてみてはいかがでしょうか。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。